「ウェルビーイングと健康-①」のつづき)

 

ウェルビーイングは身体の健康にも関係している

心理的ウェルビーイングは、幅広い健康指標と関連することが示されています。たとえば、心理的ウェルビーイングが高い人ほど寿命が長い傾向があることや、加齢に伴って低下する身体機能・認知機能が比較的保たれていること、心血管疾患の発症リスクが低いことなどが報告されています。2–4

では、なぜ心の状態が健康に関係するのでしょうか。理由は一つではありませんが、少なくとも次のような経路が考えられます。第一に、心理的ウェルビーイングが高い人ほど、健康的な行動を取るため、健康になりやすい可能性があります。ウェルビーイングが高い人は喫煙・過度の飲酒を避ける、運動や食事がより健康的であるといった傾向を示すデータがあります。第二に、心理的ウェルビーイングが神経・生理機能に影響し、生物学的な変化をもたらしている可能性も考えられています。第三に、ストレスへの対処がうまくいくことで、抑うつや不安などのネガティブな心理機能が健康に与える影響を和らげている可能性もあります。加えて、心理的ウェルビーイングが高い人は社会的なつながりが広く、様々な支援を得やすくなることで、結果的に健康につながったり、ボランティア参加など健康を促す行動にも結びつきやすくなることが考えられます。つまり、ウェルビーイングは「気分の問題」にとどまらず、健康行動や生理的な反応にもつながっている可能性があるということです。

ウェルビーイングは変えられる—環境要因が大きいという事実

ウェルビーイングは、生まれつきの気質や遺伝によって左右される部分もありますが、それだけで決まるわけではありません。双生児研究などから、遺伝要因の寄与はおよそ25〜40%程度と推定されており、残りの多くは環境要因が占めると考えられています。とくに、教育が大きな規定要因になるということは、繰り返し示されています。ここで重要なのは、環境要因の影響が大きいということは、裏を返せば「介入可能性がある」という点です。個人の努力だけに頼らず、家庭・学校・職場・地域などの周囲の環境を整えることで、ウェルビーイングを支え、向上させられる余地があります。

ウェルビーイングを高める取り組みは、大きく3つのレベルに分けて考えると整理しやすくなると思います。個人レベル、組織レベル、そして政策レベルです。

1)個人レベルの取り組み

心理学研究で様々な個人レベルの介入方法が研究されています。比較的取り組みやすい例として、「最高の自分像を想像する(これから実現したい良い未来を具体的に描く)」Best Possible Selfというものがあります。例えば、10年後の理想の自分を思い描き、どのような状態になっているか具体化したうえで、そこに近づくためのステップを考えます。ほかにも、他人に親切にする、誰かに感謝の手紙を書く、ポジティブな出来事を振り返る、自分の強みを新しい形で活用する、といった方法が挙げられます。

2)組織レベルの取り組み

個人努力だけでは限界があるため、組織レベルで考えることも重要だと思います。具体的には、組織の中でも多くの人が時間を過ごす職場での環境整備が効果的なのではないかと思います。例えば、仕事の裁量(自分で決められる範囲)を増やす、仕事の目的や意義(パーパス)を共有する、従業員の声を反映する仕組みを整える、スケジュールの柔軟性を高める、といった取り組みが考えられます。

3)政策レベルの取り組み

より広い視点では、労働時間や休暇制度、雇用の安定、教育機会、地域の支援、医療や福祉へのアクセスなど、社会制度の設計が心理的ウェルビーイングに影響すると考えられます。個人や一つの職場の努力ではどうにもならない課題ほど、政策の役割が大きくなると思います。

まとめ

心理的ウェルビーイングは、単に「つらくない状態」ではなく、前向きさ、目的意識、満足感、良い見通しといったポジティブな心理的機能を含む、広い概念です。これらは質問票などで一定程度測定でき、健康行動や心身の健康指標などと関係することが示されています。そして重要なのは、ウェルビーイングは生まれつきのものだけで決まるのではなく、環境要因の影響が大きいという点です。

だからこそ、ウェルビーイングを「個人の気合」だけに任せるのではなく、日常の小さな工夫(個人レベル)、働く環境などの改善(組織レベル)、社会制度の整備(政策レベル)という多層的な方法で支えることができます。ウェルビーイングを意識して整えることは、今この瞬間の暮らしを楽にするだけでなく、将来の健康や生活の質にもつながっていきます。自分自身のためにも、家族や職場、地域のためにも、「より良く生きる」ための条件を少しずつ整えていくことが大切です。

 

参考資料

2. Koga HK, Grodstein F, Williams DR, et al. Longitudinal Associations Between Optimism and Objective Measures of Physical Functioning in Women. JAMA Psychiatry. 2024;81(5):489. doi:10.1001/jamapsychiatry.2023.5068

 3. Koga HK, Trudel-Fitzgerald C, Lee LO, et al. Optimism, lifestyle, and longevity in a racially diverse cohort of women. J Am Geriatr Soc. 2022;70(10):2793-2804. doi:10.1111/jgs.17897

 4. Kubzansky LD, Huffman JC, Boehm JK, et al. Positive Psychological Well-Being and Cardiovascular Disease: JACC Health Promotion Series. J Am Coll Cardiol. 2018;72(12):1382-1396. doi:10.1016/j.jacc.2018.07.042