ウェルビーイングとは何か
近年、「ウェルビーイング(well-being)」という言葉を耳にする機会が増えています。直訳すると「良く(well)存在する(being)」ですが、この言葉はいまや使われ方がとても幅広くなっています。人によってはウェルビーイングに「身体の健康」を含めて語ることもあります。そのため、現時点では「これ」と定まった一つの意味に収まりにくくなっているのが実情です。本記事で扱うウェルビーイングは、主に心の中で感じる「心理的ウェルビーイング(psychological well-being)」であり、メンタルや精神面に焦点を当てたものを中心に取り上げます。
「心理的ウェルビーイング」は少し掴みづらい概念かと思います。そこで理解の助けとして、あえて“反対側”にあるものである「ネガティブな心理機能」と対比して考えてみます。ネガティブな心理機能の例としては、多くの人にとっては馴染みのある、抑うつや不安、怒り、ネガティブ感情、そして苦痛や心的ストレスなどが挙げられます。一方で、これらと“逆向き”に位置づけられるものがポジティブな心理機能であり、心理的ウェルビーイングは「ポジティブな心理機能が備わっている状態」と捉えるとイメージしやすいでしょう。具体的には、ポジティブ感情、人生の満足感 、人生のパーパス(目的意識)、幸福感(happiness)や楽観主義(optimism)などが含まれます。
ネガティブがないこと=ポジティブがあること、ではない
ここで大切なのは、「ネガティブな心理機能がないこと(心理的苦痛が少ないこと)」と「ポジティブな心理的機能が備わっていること」は同じではない、という点です。たとえば、抑うつや不安、怒り、ネガティブ感情、強いストレスが少ないことは確かに重要です。しかし、それだけで「心が満たされている」といえるかというと、そうとも限りません。
落ち込みはないけれど、人生に張り合いがない。大きな不安はないけれど、喜びや希望が乏しい。こうした状態は、実生活では珍しくありません。だからこそ、ウェルビーイングを考える際には、ネガティブな状態の低さだけでなく、ポジティブな状態の高さに目を向ける必要があります。
ウェルビーイングをつくる主な要素
心理的ウェルビーイングは、簡単に整理すると主に次のように分類できます。
ヘドニック・ウェルビーイング (hedonic well-being)
ヘドニック・ウェルビーイングは、人々が実際に経験する幸福感を指します。すなわち、生活が「不快」よりも「快」として感じられる程度であり、日々の生活の中で「楽しい・うれしい・心地よい」と感じる体験が多く、つらさや不快感が少ない状態を意味します。一般に人生の満足感が高いことやポジティブ感情が多いこと、ネガティブ感情が少ないことなどで捉えられます。
ユーダイモニック・ウェルビーイング(eudaimonic well-being)
ユーダイモニック・ウェルビーイングは、単に幸福感(うれしい・楽しい)を感じていることにとどまらず、目的意識や成長、自己実現といった側面を含むウェルビーイングです。つまり、意味のある人生を送り、成長し、自己実現に向けて生きられているかという「生き方の質」に焦点が当てられます。代表的な要素として人生の目的(パーパス)、自律性、人格的成長、自己受容、他者との肯定的関係、環境制御力などが挙げられます。
その他のウェルビーイング
上記の枠組みに収まりきらない要素として、たとえば楽観主義のような特性も、ウェルビーイングを形づくる重要な側面として位置づけられます。
ウェルビーイングはどうやって測るのか—質問票で「見える化」する
ウェルビーイングは感覚的な言葉に見えますが、研究や実務では質問票(尺度)を使って定量化することが一般的です。たとえば、ポジティブ感情を測るための質問票、人生の目的意識を測るための質問票、人生の評価を10段階で尋ねる方法、人生の満足感を測る尺度など、さまざまな指標が使われています。
例えば以下の質問に答えてみて下さい (Cantril Self-Anchoring Scale)。1
- 0から10まで番号がついた段のあるはしごを想像してください。
- はしごの一番上(10)は、あなたにとって考えうる最良の人生を表し、はしごの一番下(0)は、あなたにとって考えうる最悪の人生を表します。
- 現在、あなたは自分がはしごの何段目にいると思いますか?
この質問は、各国の幸福度を比較する世界幸福度報告(World Happiness Report)で用いられている、人生の評価(life evaluation)を測定する質問です。この質問への回答結果をもとに国別ランキングが作成されています。日本は先進国の中でも比較的順位が低く、北欧諸国が上位にランクされる傾向があります。
こうした尺度を使うと、個人の状態を把握するだけでなく、集団の傾向を把握したり、時間とともに変化する様子を追ったり、健康指標との関連を検討したりできます。もちろん、質問票は万能ではありません。文化や言語によって回答の傾向が異なることもありますし、同じ点数でも背景が異なることもあります。それでも「見えにくい状態を一定のルールで測る」ことは、対策を考えるうえで大きな意味を持ちます。
(つづきは「ウェルビーイングと健康-②」)
参考資料
- Gallup Inc. Understanding How Gallup Uses the Cantril Scale. Gallup.com. August 24, 2009. Accessed January 28, 2026.
